PAL+ インタビュー プレゼンテーションエキスパート #2-2 加藤 有祐さん

2021年5月より始まった、プレゼンテーション研究所のインタビュー企画「PAL+」(パルプラス)。

プレゼンテーション・エキスパートにインタビューし、経験や実体験からプレゼンテーション上達のヒントを探ります。

第2回は、ソフトバンク子会社の株式会社Agoop*取締役でNPO法人日本交渉協会幹事でもある加藤有祐さんです。

*本インタビューは2部構成です。まだ第1部を読んでいない方はぜひ第1部からお読みください。第1部はこちら

*Agoopはコロナ禍でテレビやネットニュースで流れている「前の週から◯◯%人出が減りました」などの人流データを収集、分析、提供している企業です

(本インタビューはコロナ禍のためオンラインで実施しました。左上:玉岡、中央上:堀内、左下:奥部、中央下:今井、右下:加藤さん)

加藤有祐 プロフィール 

2007年にソフトバンクBB株式会社入社。2009年に創業メンバーとしてグループ会社、株式会社Agoopを設立。2015年、同社のCTOに就任。コロナ感染対策として注目を浴びたAgoop人流データ等のビッグデータサービスを開発。2019年には、APACのCIO OUTLOOK社が認定するBigDataAward2020でTOP10企業にランクイン。2017年よりソフトバンクグループ社内の社内認定講師として、交渉力や新規事業開発の講師を務める。ソフトバンクグループ社員20,000人が対象となる社内講座で交渉力講師は3名のみ。2018年3月にはPresidentにも掲載。その後、新たに社外向けに交渉力研修を開発し、大手企業の研修も担当中。現在は、MasterCoachというサービスを新たに展開している。

ご本人公式サイトから抜粋

今回のExpert’s Pointは4つ!

 1.聴手のことを最大限考える力が最も重要
 2.聴手のことを考えればスキルはあとからついてくる
 3.価値交換型交渉を目指そう
 4.上達の秘訣はひたすら見て、ひたすら真似る 

相手の立場に立つ。目指すは価値交換型交渉

PAL:

これまでの話を聞いて加藤さんは一貫して「相手の立場に立つ」ということがご自身のプレゼン、交渉術の軸だと思いました。

通常、みなさん紆余曲折を経て軸を確立するなかで、なぜ塾講師など最初の段階から相手の立場に立つことを常に考えらることができたのか気になります。

加藤:

自分の性格として、自分よりも人、自分を犠牲にしてでも相手のために何かしたいという精神があるんですよね。

この性格が根底にある気がしています。

塾の講師にしても、みんなの時間をもらっている分、絶対に最大限にして返してあげたいという思いが裏にはありました。

とはいえ、この相手の立場に立つということがすべての自分の行動の根幹にある重要な軸だと気づいたのは最近ですね。

PAL:

加藤さんはそういう性格がプレゼンに非常に合っていたということだと思います。

とはいえ、そういった性格を持っていない方も多いと思います。

そういった方に「相手の立場に立つ」ということを教えるときはどうするのでしょうか?

加藤:

交渉学を教えるときには、3つの交渉があると教えるんですね。

一番ダメなのが、ジャイアン型というか「分配型交渉」です。よくある、奪い合うタイプの交渉です。

ポイントなのは「価値交換型」のプレゼンです。

自分が最大限提供できる価値を相手に提供して、相手からも価値を提供してもらうことで奪い合わない交渉をしていきます。

(図は加藤さん提供)

それを身につけるためのロールプレイングがいくつかありまして、その中で自分の価値を提供するとお互いにとても満足度が高くなるというケースをいくつも用意しているんですね。

それを実際にやってもらうと、自分の価値を提供すれば相手も自分も満足度が高くなるということを経験として得ることができます。

これを1日3回も4回も繰り返すんですよ。

そうすると、最後には「これまで自分本位の交渉をしていたことが恥ずかしくなりました」と言ってくれるような方が増えるんです。

こうやって、実際に相手の立場に立つことをひたすら体感してもらうことで「相手の立場に立つ」ということを身に着けてもらう。ということをやっています。

PAL:

なるほど。実際に体験してもらうんですね。

そのケースというのはかなり具体的なケースを用意して実施してもらうのでしょうか?

加藤:

そうですね。

あなたは開発1課の課長さんですとか。営業1課の課長さんですとか。

こういう状況で、こういう条件で交渉してくださいというの設定してやります。

そういった条件も自分でつくったりもするんですけどね。

そのケースを行うと、はっ!と価値交換型交渉の意義に気づくタイミングがある。というようになっています。

上達の秘訣はひたすら見て、ひたすら真似る

PAL:

相手の立場に立てば他のスキルは次第に身についてくるというのはわかりました。

とはいえ、加藤さんがビジネスでのプレゼンのスキルを高める上で具体的にやってきたことはあるのでしょうか?それはどんなことですか?

加藤:

ソフトバンクの決算発表や発表資料はよく見ていました。

毎回決算発表が終わるたびに、その資料をみて、何か1つでも自分のプレゼンに取り入れる。ということはよくやっていました。

PAL:

本を読んだりするのではなくて、ひたすら真似て、自分のものにしてきたということなんですね。

加藤:

そうですね。

ひたすら真似てきましたね。

PAL:

どのくらいの期間、修行というか、真似てきたんですか?

加藤:

3年間くらいですかね。

資料の大事さに気づいてから、ソフトバンクの決算資料に興味を持って、真似て自分のプレゼンを変えていったのが1年間くらい。

そのあと、虎の巻をつくって、今度は自分の課のメンバーに教えて、課の全体のアップデートを掛けてから、自分の最新版を展開していく。

そういう3段階でやっていましたね。

教えるって自分に身につくじゃないですか。

PAL:

そのやり方は他の方にもおすすめできますか?

それとも、あまりにも大変だから加藤さんが作成した虎の巻を見たほうが良いですか?

やはり、3年間それを行うって普通の人には結構ハードルが高いことだと思いまして。

加藤:

真似るのは絶対に良くなっていくので、真似るだけでもいいと思います。

それをより早く身につけたいなら、誰かに教えてみると吸収率が変わってくると思います。

でも、真似るだけでも全然良いと思います。いまでも良いデザインや資料構成は真似続けています。

PAL:

3年間真似たり、教えたりするのは結構大変だと思います。

加藤さんがそれを続けてこられた原動力というのはどういったものだったのでしょうか?

加藤:

プレゼンをする機会が会社だとたくさんあるじゃないですか。

そのときも、たまたま毎週経営会議でプレゼンをする機会があったので。

そこで、自分の資料がどんどん良くなっていく喜びが半端じゃなくてですね。

今のデザイン最高じゃん。と思えるのを毎週繰り返していくのが結構楽しみでしたね。

PAL:

3年間だと成長の浮き沈みとか、ここまででいいかとか思いそうですがそういうのはなかったんでしょうか?

加藤:

浮き沈みはありました。ある程度やったら身についてしまって停滞期が来たのも事実ですね。

ただ、幸いにもソフトバンクの社長室の資料作成チームが毎回毎回すごい資料をつくってくるので、刺激をもらったというのが続けられた理由の一つです。

資料作る速度も圧倒的に早くなったので一回途中でサボったんですけど、そうすると今度は若手とかが違うデザインの資料とかを見せてきて、そっちに興味を持ったりとかしてました。

スライドデザインは終わりがなくて面白いですね。

スライドの見せ方で聴手の受け取り方がまた変わってくるというのも面白さの一つですよね。

ひたすら暗記と、キーポイント暗記の2パターン

PAL:

次は講師としての加藤さんのお話を聞きたいのですが、交渉術やプレゼンの講師をするなかで、受講生がプレゼンや交渉術で苦手意識を持ちやすいポイントはどのあたりなのでしょうか。

加藤:

話す内容忘れてしまうとか、緊張すると頭真っ白になりますという人は結構多かったですね。

PAL:

そういう方々の原因は準備不足であったり、精神的な部分であったりすると思います。

加藤さんはそういう方々にどのような指導をして改善を促していくのでしょうか?

加藤:

私がいつも指導していたのは2パターンです。人によって性格が違うので2つのやり方を用意しています。

1つは、文章を作っていいので死ぬ気で練習するというガッツ系のパターン

ある人には朝起きたら10回、夜寝る前に10回練習してくれっていつもいってました。

それを2週間続けると何もなくても(話す内容が)出てくるようになるから、徹底的に覚えてくれと。

もう1つのパターンが覚えるなってパターンですね。

各スライドのキー、軸、絶対に言わないといけないことだけ整理しておいて、それだけ覚えてくれと。

そうすると、それさえ言えばあとは語尾というのはついてきます。

そういう、覚える量を減らすというパターン。

この2つのパターンのどちらかを実践してもらっていました。

PAL:

前者の覚える系は加藤さんの経験から編み出された方法なように思いました。

後者のキーを覚える方はどなたかが実践されていたんでしょうか?

加藤:

どちらも自分の経験からです。

大学院時代はひたすら覚えてプレゼンをしていて、覚えてしまえばプレゼンなんてかんたんじゃん。という生意気なことを思っていたんですね。

ただ、社会人になってからは、毎週のようにプレゼンがあって覚えている時間もなくて、何かやり方を変えないといけないと思ったときに、キーを覚えるというパターンに行き着いたっていう感じですね。

加藤さんにとってプレゼンとは?

PAL:

ありがとうございます。

そろそろ最後になるのですが、加藤さんにとってプレゼンとはどのようなものでしょうか?

加藤:

僕が思うプレゼンは

価値を創造するコミュニケーション手段だと思っています。

自分の持っている価値をプレゼンで出すことで価値が返ってきたり、膨れ上がったり、社会が変わったりする。そういう価値が創られる世界観だと思っています。

PAL:

まさに途中でおっしゃていた価値交換型交渉ですね。

では最後にプレゼンが苦手な人にメッセージをお願いします。

加藤:

本当にプレゼンは場数だと思うので、経験というふうになってしまうと思うのですが、

聴手のことを考え抜くということだけ考えてやると、それに伴っていろいろなスキルが身についてくるので、まずはそれを考えもらえればと思います。

PAL:

この度はお時間いただきましてありがとうございました。

この記事を書いた人

プレゼンテーション研究所