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PAL+ インタビュー
プレゼンテーションエキスパート #1 石原由一朗さん
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今月より始まった、プレゼンテーション研究所 インタビュー企画「PAL+」
プレゼンテーションのエキスパートにインタビューし、さまざまな角度からプレゼンテーションにおける課題解決のヒントを探ります。
第1回は、世界最大級の組織開発コンサルティングファーム「デール・カーネギー・トレーニング」の日本法人取締役を経て、現在は独立し多くの企業・団体の人財育成・組織開発を推進しているプレゼンテーションスペシャリストの石原由一朗さんにお話を伺いました。海外と日本におけるプレゼンテーションの仕方や価値観の違い、上達方法、プレゼンテーションに携わる仕事の面白さについてお伺いしながら、石原さんのプレゼンに対する思いを紐解いていきます。
インタビューテーマ
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プレゼンテーションに苦手意識を持っていたり、よりプレゼン力を向上させたいと思っている読者へ向けて、プレゼンテーションスペシャリストとしてアドバイスをください。
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今回のExpert’s pointは3つ。
1.プレゼンの第一歩は「アティチュード」 うまく伝えられない、喋れない、で悩む前に、どういう態度で臨むかが大事。 その一歩(=Jump in)が自分に変化を起こす。 2.派手に練習をして「自分の枠」を広げる 本番は緊張して当たり前。 事前に練習を積み自分の枠を広げておくことで、頭が真っ白になっても余韻があれば、対応できる。 3.自分がありたい姿=Beを知る 闇雲に練習するのではなく、まず自分の本来のあり方、そしてどうありたいか、どうなりたいか。 その「Be」を知ることが行動(Do)につながり、成功体験(Get)になる。 このサイクルを回すことが大事。 |
それでは、インタビュースタートです!
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PAL:
デールカーネギージャパンで長らくトレーナーを務め、アジア人で初めてトレーナーの最高位であるマスタートレーナーになられた石原さん。
そんな石原さんが考える、プレゼンに構成される重要な要素とは?
そもそもどういうことを意識してプレゼンをするとよいか、お聞かせください。
石原さん:
いきなり難しいところから来るんですね(笑)。
PAの理念である「念いを伝える」は、まさにそうだと思いますよ。
プレゼンテーションは「プレゼント」ですからね。相手に送って、受け取ってもらうということが大事だと思います。独り言とは違う。プレゼンテーションは相手を意識して、相手の手元に届ける。
相手に対するベクトルがあるかを意識するとよいと思いますね。
PAL:
相手の手元に届けるまでがプレゼン。常に相手を意識することが大事ですよね。
さまざまな文化圏でプレゼンのトレーニングをされていますが、海外と日本の違いは結構ありますか?
石原さん:
やっぱり日本人と欧米(海外)との違いは、文化の中にプレゼンテーションが入っているかどうかですね。よく欧米の友達に聞くのは、そもそも欧米のプレゼンの文化を遡ればギリシャだ、と。
ギリシャでは哲学者や指導者が演説や議論を通じて社会を動かしていたらしいですね。今でもアメリカなんかで日曜日にテレビつけると、宗教家がものすごい迫力でプレゼンしてるじゃないですか。
一方で日本は、日常に「プレゼン」というものがあまりないですよね。
なんとなく「肌感覚でわかるでしょ」「ツーカーでしょ」といった感覚の中で生きてきたし、自ら発信したり受け取ったりというコミュニケーションはそれほどやっていなかった。
でも欧米は多民族だし、価値観も違う。だから言わなきゃわからない、伝えなきゃわからない、といった文化の違いがひとつ。
あとは、それを日頃から訓練しているかどうかだと思います。
(欧米の)彼らは訓練していますよ。学校でも小さい頃から発言したり、ディスカッションしてる。
日本はどちらかというと先生の話を一方的に聞くでしょ。
だから、そういう文化と訓練の機会が違うんじゃないかなと思いますね。
PAL:
石原さんが日本人としてアメリカでトレーニングを積んで、一番感じた文化の違いはなんですか?
石原さん:
僕は以前旭化成に10年いたのですが、日系企業あるあるかもしれませんが、頭数は多いわりにみんなMTGほとんど参加しないんですよ(笑)。会議に出てても内職したり、あまり意見を言わなかったり。
その後転職してグローバル企業に入って、いきなり海外出張行かされたんですね。
アジアパシフィックの人たちが集まってトレーニングを積むのですが、5人とかで議論する場がいっぱいあるんですよ。グループにはいろんな国の人がいて、そこで驚いたのが、みんなすっごい喋る。英語がセカンドランゲージの国のメンバーとかも積極的に喋る。そんな中で僕は英語を喋れないことを理由に黙ってたんですよ。それは旭化成の頃からそうだったから(笑)。「Oh!」とか「Wow!」とか言ってやり過ごそうとして。
そんな様子を見たカナダ人の上司が僕に近づいてきて、ぽんぽんっと肩を叩くんです。
怒られる?と思ったら、彼女が一言だけ言うんですよ。
「Jump in!!」って。
そのときは「飛び込め!」という意味だと思って。
とりあえず入らなきゃと思って、頑張って喋るようにしたんです。そうすると、みんな聞いてくれる。
それまで英語を喋れないということを理由に言い訳していたことに気づきました。
自分が発信していかないと、価値がないんですよ。
渡航費や人件費を使ってそこに集まっているわけだから、何もしないということは価値がない。
そのことを上司は「jump in」という一言で教えてくれたんです。この経験から僕が思うのはまずは「アティチュード(態度)」が大事だと思う。
どう喋れるかではなくて、どういう態度で望むか。
このあたりが僕がカーネギーで一番最初の学びでした。
PAL:
「Jump in!!」の一言が石原さんの価値観を変えてくれたんですね。
そういった多文化の中で経験を積まれた石原さんが、プレゼンが苦手な方へトレーニングする上で大事にしていることはなんでしょうか。
石原さん:
僕が一番大事にしているのは「安全な環境をつくる」ということです。
プレゼンの指導って、受ける側からしたら地獄なんですよ(笑)。あれやこれや、あーだこーだ言われて、たくさん指摘されるわけでしょう。言われた方は、どんどん萎縮しちゃうんですよ。
萎縮すればするほどプレゼンってできなくなるから痛みを伴う練習になっちゃうんですね。
だから僕がいつも気にかけてるのが「痛くない」練習。むしろ楽しい練習。
だからそのためにもいっぱい褒めるしもう全然指摘しないし、ネガティブなことは一切しない。
あとは僕自身が馬鹿になります(笑)。
彼らだけに恥ずかしい事をやらせない。僕がその10倍くらい恥ずかしいことをやる。
そうすればそこに「安全な環境」ができるんです。
もうひとつ、プレゼンの練習指導する時に大事にしていることは「派手にやる」ということです。
風船を膨らませるのをイメージしてほしいのですが、風船をフーッと膨らませて、離すとシュルルルルーンっと小さくなりますよね。
それをもう1回膨らませるとすると、同じ風船でも1回目に膨らましたのと、2回目に膨らますのって、どっちが楽に膨らむでしょうか。2回目ですよね。なんでかって言うと、ゴムが伸びてるからです。
優れたプレゼンの練習というのは、僕はその「ゴムを伸ばす」ことだと思うんですよ。
だからなるべく練習では派手にやります。それは声の大きさも然り、動きも然り、気持ちも然り、とにかく極端にやる。そうするとやっぱゴムが伸びる。いろんな方向性でそのゴムを伸ばしておけば、本番の時にはその「余韻」があるから、あんまり意識しなくても自然と表現できるようになる。
実際にプレゼンするときって、目線とか手とか、正直そんなとこに頭はいかないんですよ。
だって他に考えなきゃいけないことがあるでしょ。時間のこと、オーディエンスの反応、原稿のこと…いっぱい考えなきゃいけない。そこにほとんどの脳みそを取られてるから、話し方の部分はなるべく無意識にやりたいんです。
そのためには「効果的なプレゼンテーション」を体に染み込ましておく必要がある。だから「効果的なプレゼンテーション」を派手に練習する。風船を膨らませる練習をしておく。
それが大事なことだと思います。そのためには、練習での安全な環境をつくらなきゃいけないなと思っています。相手が一部上場企業の社長だろうが、誰だろうが、同じように派手な練習をしてもらいます(笑)。
PAL:
なるほど。事前に自分の枠を伸ばしてバッファを作っておけば、本番でもパフォーマンスを出せそうです。プレゼンのトレーニングを受けたことで大きく変化する方も多そうですが、どういう経験を積むとその人自身や、アティチュード(態度)は変化するのでしょうか?
石原さん:
僕がいつも伝えていることで「Be×Do=Get」という概念があります。アティチュードって、これのどこかわかりますか?
「Be」です。あり方とか価値観とか自信とか。前向きな態度とか熱意とか。
「Do」は何かっていうと、どういう行動するか、どう話すか、何を話すかとかっていうコミュニケーションですね。
「Get」は得られる結果です。オーディエンスの反応だったり、行動をとってくれるって事だったり、生産性が高まるだったり、いろんな結果がありますよね。
今の質問は「Be」をどうやったらあげられるかって話です。
自信をつけろ、緊張するなと言うのは簡単なんですが、そんなことすぐできるわけないですよね。
「Be」を上げるために何を指導してあげなきゃいけないかというと、「Get」を得られやすい正しい「Do」を効果的に身に付けてもらうことなんですよ。それがプレゼンだとするならば、プレゼンテーションの効果的な正しいやり方を。
といっても誰にでも同じ指導をするのではなくて、本人に合った効果的な正しいやり方を身につけてもらうということです。あなたがもっと自分の在り方、自分のありのままを生かして、自分らしく、こんな風にプレゼンするといいですよ、とか、こんな風にすると届きますよとかっていうのを、ちゃんと指導してあげる。そしてそれがちゃんと身に付く、定着することが大事。
だから派手な練習をやって経験を積んで正しい「Do」ができるようになると、欲しかった「Get」を得られるわけです。オーディエンスからいい反応が得られました、部下が動いてくれました、売れなかったものが売れました、っていう「Get」が。
そしてそれが今度は「Be」にフィードバックされる。やっぱりこのコミュニケーションでいいんだ、自信がついた、ありのままでいいんだ、緊張しなくていいんだって。その経験で、自意識を乗り超えられる。
そうすると、次からはもっとよりナチュラルな「Do」ができる。より自然に自信が出る。より自然に熱意が出るようになる。よりもっと効果的なプレゼンができる。
そうすると、より良い「Get」が手に入る。
このサイクルを回してあげるっていうのが大事なことなんです。
PAL:
経験が自信になり、その自信がまた経験する勇気に繋がって、いい循環が生まれますね。
これまで多くの企業や役職者にプレゼントレーニングをされていますが、どんな「Be」が出てきたのか聞いてみたいです。
石原さん:
とある大手企業の社長さんにトレーニングした時の話です。
新商品発表会にメディアが来るので、そのためにプレゼンをしなきゃいけないということで呼ばれて指導させていただいたんですけど、その社長さん、もともとお上手なんです。
ただ、原稿をナチュラルに読まれるって能力はすごく高いのだけれど、1回ビデオに撮って、自分で見てもらった時に「硬いな。面白くないな」って、自分で仰るわけで。
そこで僕はどんなことをやったかっていうと、「じゃあ目の前にいる人が自分の大親友だと思って喋ってください。」と言ったの。
そしたらそのタイミングで、もうすぐに変わって。すっごいフレンドリーに、いかに自分とこのその商品が素晴らしいかって、仲のいい人に自然に売り込むように話すんです。それをビデオに撮ってご自身で見ていただいたら「えー!別人ですね」って仰って。いやいやそれあなたですよ、って(笑)。
それを見た広報の役員が、「これは、対外的なメディア向けのプレゼンだけじゃなくて、社内向けにもやってほしい」「今の話し方で社員に話すと組織が変わる」って言ったんです。
その通りなんですよ、本当に。
プレゼンっていうのはそれくらいのインパクトがあるってこと。
もちろん社長のプレゼン一つで株価の上がり下がりもするし、社内の社員のエンゲージメントを変えるだけの力があるということです。それはね、すごい面白かった。
PAL:
感情の込め方一つでやっぱり伝わるものがぐっと変わるんですね。
石原さん:
僕はそれはね、演技ではなくてその人のありのままだと思うですよ。演じてない。
僕は演じる指導ってのは一切しないんですよ。どんなにその人がどんなことを成し遂げたとしても(Get)、どんな行動を取ろうとも(Do)、やっぱりその人の中身(Be)を信じられないと僕たちやっぱり納得しないですよね。その人の人柄とか人間性とか。だからその人からナチュラルな自分自身が出ることがすごく大事。でも、多く人のそれを阻害しているのが自意識です。照れもそう。
こんないつもと違うプレゼンしちゃうと変な風に見られちゃうんじゃないか、とかね。そういうものが結局、ありのままの自分とか感情を出すことを阻害してるんですよ。
だから僕の仕事はそれを取っ払ってあげること。もっとスムーズにエネルギーが流れるようにしてあげること。マッサージ師と一緒で、コリを取っ払ってあげると、スムーズにいつもの自分の正直な気持ちが出てくる。社員に対する「ついてきてくれ!」という気持ちが出てくるし「商品を愛してます」って気持ちが出る。そこに聞き手は感銘を受けるわけ。
だから僕の仕事はその「Be」を素直に出させてあげることだと思っています。
PAL:
「Be」の話にもありましたが、自分の在り方や、自分のありのままを生かして自分らしくプレゼンする、と聞くと、自分よがりになったり、自分が気持ちよくなって喋ってしまいませんか…?
石原さん:
おお、深いことを聞きますね!これ結論から言うと、自分よがりにはならないんですよ、ちゃんとベクトルが相手に向いている限り。練習では、相手を親友だと思ったり宴会の場だと思って喋っても、実際はちゃんと目の前の人を意識して親近感をもって誠実に話しています。。あくまでベクトルはオーディエンスの方を向いてるから結果うまくいく。これが自分にベクトルが向いてるとうまくいかないですね。恥ずかしい、逃げ出したいとか、自分さえよければいいとか、どう俺ってすごいでしょ!?みたいに自分のことばかり考えてるとオーディエンスと繋がれないですね。
そしてもうひとつ、これは今言ったことと矛盾するように聞こえるかもしれないけど、プレゼンテーションって、スタートはどっちかっていうとプレゼンターだとも言えるんですよ。
僕たちがやっぱり楽しい気持ちでしゃべるとそれがだんだん伝わるんです。僕たちが真面目な気持ちでしゃべれば、それが向こうに伝わるんですね。
多くのプレゼンターが影響受けすぎてしまうのは、オーディエンスの反応です。オーディエンスがグダっとしてたり手悪さしてたり、別の方向見てたりすると「あー聞いてない」って思ってネガティブな影響を受けちゃうんですよ。そうすると自分自身がぐだぐだになっちゃう。
違うんです。あなたがスタートなんだよって。
これは鏡と一緒で、鏡に映る自分に「笑え」って言われていても笑うわけないじゃないですか。自分ががニコニコしていれば鏡の自分も笑うでしょ。こっちが真剣だったらあっちも真剣になる。プレゼンも一緒。
いつもこっちがスタートなんです。自分のエネルギーを届ける。それが相手に影響するんです。
空気読んでるだけじゃなくて、自分で空気を作ってくださいって思っています。
<インタビューを経て>
約1時間お話を伺いましたが、終始画面から石原さんのパワーやエネルギーが伝わってきて、仰っていた「相手へ届ける」をまさに体感した1時間でした。
Expert’s point Review
1.プレゼンの第一歩は「アティチュード」 2.派手に練習をして「自分の枠」を広げる 3.自分がありたい姿=Beを知る |
そして、まずは「Jump in!!」
飛び込んで、自分の可能性を広げてみると、プレゼンの幅が大きく広がるのではないでしょうか。
石原さん、ありがとうございました!
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interviewee: 石原由一朗氏
広島県生まれ。千葉県船橋市在住。 旭化成グループにおいて財務会計システムを中心とした業務システム構築・運用に従事。さらに人事部門にて採用と人財・組織開発を統括。 2010年に、100年以上にわたり世界95か国で展開する世界最古にして世界最大級の組織開発コンサルティングファームであるデール・カーネギー・トレーニングに移り、日本法人のトレーニング部門責任者として累計150社以上の企業・団体の人財育成・組織開発を推進。年間登壇数200回以上。 米国ミズーリ州において、デール・カーネギー氏本人の数少ない直系トレーナーであるグレッグ・ラトリフ氏(Global Director of Trainer Development & Quality)に師事。世界No.1マスタートレーナーであるクラーク・メリル氏から長年にわたり薫陶を受ける。 2015年に米国本部グローバル・マスター・トレーナーとして日本人で唯一認定され(全世界30名の1人)、世界3000名の公認トレーナーの養成にあたる。 2016年、デール・カーネギー・トレーニング日本法人取締役。 2017年、立教大学経営学部兼任講師(グローバルリーダーシップ)。 2019年、独立。株式会社よかタウン 顧問、株式会社NEWONE 執行役員 に就任。 公式Webサイト:https://yuichiroishihara.com/
interviewer: プレゼンテーション研究所